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ろうあ者や手話通訳、時には時事ネタも突っ込む20代の次世代手話通訳者×全コーダが書くブログ。基本週一更新予定。

Re-read Suddenly

はじめに

ふとしたタイミングで、「障害者権利条約」(正式には「障害者の権利に関する条約」)ってどんなんだったっけ?と思い、読み返すことにしました。ただ、自分が読み返すだけではもったいないというより、せっかくならブログのネタにしようと。そして、知らない人に知ってもらおうと思いまして。

 

「障害者権利条約」は、ここ数年の話かと思いきや、実は2007年に日本政府はこの条約に署名しています。そのあと国内法の整備、主に障害者基本法障害者雇用促進法、障害者差別解消法の成立によって、2013年に日本政府はこの条約の批准を承認しています。翌2014年には、国連でも承認が確認されています。

 

わからない人にはわかりやすく読んでもらいたいと思いますので、ろうあ者(聴覚障害者を含む)や手話通訳者に関係のある項目について一部抜粋し、みていこうと思います。独自解釈ですので、間違った見方をしていましたら、ご連絡いただければ幸いです。
なお、障害者権利条約の条文は、日本政府にて翻訳されており、外務省のホームページから見ることができます。

もくじ

第二条 定義

この条約の適用上、
 「意思疎通」とは、言語、文字の表示、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用しやすいマルチメディア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む。)をいう。
 「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。

 これは、障害者権利条約内で列挙する各条項に対して、統一的な解釈を求めるために、また各条項の見解を統一するためのいわば前置きですね。

「意思疎通」、これは「コミュニケーション」という言葉に置き換えられることがありますが、そのツールとして言語を用いて行われること、さらにはその言語の中には非音声言語の代表として「手話」が挙げられています。

つまり、障害者権利条約内では、言語として手話も含みますよ、ということになります。

 

第四条 一般的義務

1 締約国は、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。

 

(a) この条約において認められる権利の実現のため、全ての適当な立法措置、行政措置その他の措置をとること。
(b) 障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること。
(c) 全ての政策及び計画において障害者の人権の保護及び促進を考慮に入れること。

 

 (以下省略)

 締結国(いわゆる批准を承認した国)では、障害を理由とした様々な差別に対して、人権と基本的自由を完全に実現、さらに促進することを約束する、と書かれています。その中で、法律の制定や、既存の法律の修正、さらには国策等さまざまな政策に対して、障害者の人権の保護や障害者が社会参加できるような促進を考慮に入れることを義務にする、と明記しています。

 

第五条 平等および無差別

1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。
4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。

 いわゆる「障害者差別解消法」が規定された理由の核になる部分です。締結国では、法律に基づいて障害がある人もない人も極めて平等であること、さらに障害を理由とした差別は禁止、不備がある場合には保護することも規定されています。平等を促進すること、平等を求めること・差別をなくすこと・合理的配慮の提供が行われるために適正な措置をとることを求めています。

日本での「障害者差別解消法」では、大きく二つの部分が中心となっており、

  • 障害を理由としたあらゆる差別の禁止
  • 合理的配慮の提供が、公的機関では罰則規定がある義務、一般企業等では罰則規定がない義務

になっています。

 

第七条 障害のある児童

1 締約国は、障害のある児童が他の児童との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するための全ての必要な措置をとる。
2 障害のある児童に関する全ての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
3 締約国は、障害のある児童が、自己に影響を及ぼす全ての事項について自由に自己の意見を表明する権利並びにこの権利を実現するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。この場合において、障害のある児童の意見は、他の児童との平等を基礎として、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
教育部分が大きくクローズアップされていますが、平等を基礎として、日本では"教育を受ける権利”が障害があっても等しく享有するために必要な措置をとること、いわゆる”特別支援教育”等を行う際には児童に対する利益を主に考慮されなければならないこと。さらに、子どもたちが自由に意見を表明することや、年齢や障害に応じた適切な教育等を受ける権利を有するということになっています。
 

第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ

(前略)
2 締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる。
(省略)
(e) 公衆に開放される建物その他の施設の利用の容易さを促進するため、人又は動物による支援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること。
この部分では、様々な公共施設やサービスを受けるために、必要な支援措置を受けることを保障する部分になります。
公共施設を利用するために、またその利用しやすさを進めるために、手話通訳者等の人的支援を提供することが明記されています。
 
 

第十一条 危険な状況及び人道上の緊急事態

 締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる。

ニュージーランド手話言語法(New Zealand Sign Language)の効果の一つとして、日本の聴覚障害者や手話通訳関係者に代表されて知られているのが、地震発生時の手話通訳ですが、そのことはこの部分にあたります。

日本の場合、地震大国であり、自然災害の発生も他の国に鑑みると非常に多いです。ただ、東日本大震災熊本地震では、手話通訳が配置されていても、きちんと報道されているのはNHK程度であり、他の民間放送局では省かれて放送されていることが多いです。しかも、NHKですら、官房長官等政府高官から離れて通訳しているため、ワイプで抜き出して放送していることから、あまり見やすいとはお世辞にも言えません。

聴覚障害者の安全や保護のためには、ニュージーランドのように近く、横で手話通訳できるような対応が待たれます。

 

第十九条  自立した生活及び地域社会への包容

 この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。

障害がある人の社会参加を追求する項目ですね。日本では手話言語条例等で地域単位ですが、平等に参加できるよう保障しているところもありますね。

 

第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

 締約国は、障害者が、第二条に定めるあらゆる形態の意思疎通であって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(他の者との平等を基礎として情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するための全ての適当な措置をとる。この措置には、次のことによるものを含む。

(a) 障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により、適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること。
(b) 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。
(c) 一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用しやすい又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。
(d) マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む。)がそのサービスを障害者にとって利用しやすいものとするよう奨励すること。
(e) 手話の使用を認め、及び促進すること。

わたし個人では、ここが一番手話言語法や手話言語条例の制定意義に迫れるところだと思います。特に最後には、手話使用の促進が明記されています。

また、拡大解釈にはなるかもしれませんが、一番最初では、意思疎通についての権利を行使できるように、締結国がなんらかの措置をとることも明記されています。 つまり、すごくド派手な解釈にはなるかもしれませんが、都道府県および市区町村内で手話通訳の設置を義務づけるようなこともこの条文からはなんら、不思議ではないのです。

それから、(b)では、公的活動での手話による意思疎通が保障されています。簡単にいえば、最近聴覚障害者が相次いで市区町村議会の議員になられたりしましたが、議会における手話通訳の配置や手話によってコミュニケーションをとることは、この条文から保障されていることになるのです。

 

第二十四条 教育

1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。

(省略)

2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。

(a) 障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。
(b) 障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること。
(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること。
3 締約国は、障害者が教育に完全かつ平等に参加し、及び地域社会の構成員として完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。
(省略)
(b) 手話の習得及び聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。
(c) 盲人、聾者又は盲聾者(特に盲人、聾者又は盲聾者である児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。
4 締約国は、1の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育に従事する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。
5 締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。

まず、1からですが、いわゆる”教育を受ける権利”を障害があっても実現するために、あらゆる段階の教育制度等を確保する、と明記されています。日本政府はこの部分で”特別支援教育”が用いられていますよね。ネーミングセンスは置いておいても。

そのことにより、2ではそのために必要な措置として、日本では義務教育となっている小学から中学においての教育では排除をされないことを保障しています。

そして、いわゆる”特別支援教育”の枠組みの中では、手話ができる専門性のある教員を設置することなどの合理的配慮、手話の習得やろう文化における非特定言語の習得・促進を容易に進めること、また聴覚障害を理由として手話に限定せず、その障害がある子どもに対しての意思疎通手段は限定しないことを明記しています。

最後の項目では、日本の場合大学や専門学校において、障害関係なしに権利を受けることができることを保障しています。日本の場合、手話言語法の制定がまだで、大学等によっては手話通訳を設置しないという大学もまだ数多く残っています。

 

第二十七条 労働及び雇用

1 締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。

(省略)

ここの部分が核となって成立された法律が、「障害者雇用促進法」ですね。

話をだいぶ昔に遡りますが、運転免許裁判が行われていた頃、職業選択の自由が阻害されてきた時代がありました。これは、当時の道路交通法88条で聴覚障害者等が”口のきけないものには免許を与えない”という不合理な法律の元で阻害されてきました。当時、聴覚障害者は免許のいらない自転車までしか運転できず、トラクターなどの耕運機を含む小型特殊自動車ですら運転免許が与えられず、”農家”という職業選択ができなかったのです。運転免許裁判は最高裁までもつれていき、結果は惜しくも敗訴しましたが、各地で行われた署名運動等により、甘くみておけなかった今の警視庁は運転免許裁判期間中に道路交通法の改正を規定。運転免許裁判終結後の翌年から補聴器着用可能で90デシベル以上の警告音が聞こえれば運転免許を与えられることになっていったのです。

あの時代からみれば、画期的な進化なのかもしれませんが、それでもなお「障害者雇用促進法」では2%前後の雇用義務が課されています。いつか、その数字がなくなる時が来た時、障害者が円滑に職業に就け、社会参加が進んで行くのだと思います。

第三十条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツの参加

(省略)

4 障害者は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的な同一性(手話及び聾文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。

(省略)

手話言語法や手話言語条例が制定される意義、もう一つはここにあります。ろう文化や手話言語等の同一性を承認、支持される権利を持っている、ということです。

手話言語条例がまだ2%にも満たない自治体で細々と作れていきますが、ほとんどの条例では”ろう文化の尊重”が掲げられています。この文化生活等の保障は、ろうあ者のアイデンティティを尊重することにもつながっていきます。

 

まとめ・感想

ということで、ここまで大体ろうあ者や手話通訳者に関係のある条文を列挙していきましたが、改めてみるとこれだけの材料が揃っていて、手話言語法なしに条約の求める水準に達したと明記するのは、虫のいい話ではないでしょうかね。

各地の手話言語条例を見ていっても、福島県郡山市のように災害対応を明記しているところ、中核市政令指定都市都道府県では教育管轄がありますから教育に関する項目を明記している条例も何個かあります。群馬県などはいい例ですね。

それほどまでに、手話言語法として明記されるべき条項が多いということです。だからこそ、手話言語法が必要なのであるのです。

地震が起きた時どうするか、聞こえる人が聞こえない子どもを産んだ時どうするか、今生活しているろうあ者を政府はどこまで守れるのか。そして、ろうあ者が明るく生きる世の中にするためには、ろうあ者を含め障害がある人に理解を示している一般の方たちには、もっともっと障害者基本法や障害者差別解消法などの成立された法律を拡充していくことはもちろん、この条約に明記されていないようなことを国は新法として明記してもいいのです。

昨年春、障害者差別解消法が施行され、もう1年が経過しました。障害当事者からすると、「障害者差別解消法が普及していない」という辛辣な意見も飛び交っていますが、ごともっとな話で「そんな法律あるの?」というよりも、「障害者への差別はほとんどなくなった」という世論の見方は一向に変わっていません。障害者権利条約が多くの人にまだ普及されていない中、国の法律という形で、障害者基本法や障害者差別解消法が制定されて、条約に基づいていい方向へ修正するという形はすばらしいですが、障害者をデメリットと捉えている企業や個人があまりにも多くて、そこをもう少し変えて行くことがこの先、これらの法律を普及させていくためにもやらなければいけないことです。

何年後になるかわかりませんが、全日本ろうあ連盟では手話言語法や情報・コミュニケーション法の制定をこれからも辛抱強くやっていくことと思います。昨年、手話言語法制定運動は全国の1700以上ある自治体からGOサインが出て、国もその力を無視できないほどになりました。自民党は手話言語法関連の意見交換会を度々実施しており、世論はさておき、国会内でも相当機運が高まっています。

それを普及させるためにも、日本人が障害者に対するデメリットな見方を直していかなければ、意味は成しても、思ったような制定効果が得られないことも十分あり得るのです。

手話言語条例もそうですが、「できました、おめでとう!」だけでは意味がないのです。それをきちんと普及させて、ろうあ者が明るい社会に参加できてこそ、やっと制定する意義があると思うのです。

私たちはまだ制定されていない手話言語条例の制定はもちろんのこと、手話言語法制定に向けて、もっともっと味方を作らなければいけないかもしれませんが、いつか私たちの願いが叶う時はいずれやってきます。障害者権利条約をきちんと把握し、「まだまだ足りない!」ということを世論を巻き込んで、政府に訴えかけることが、地道ですが一番の近道なのかもしれません。

 

P.S.6月25日まで1ヶ月を切りましたので、明けるまで更新が滞ると思いますが、ご理解ください。またいつものようにふらっと戻ってきます。