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ろうあ者や手話通訳、時には時事ネタも突っ込む20代の次世代手話通訳者×全コーダが書くブログ。基本週一更新予定。

埼玉県の手話通訳配置問題を考える。

気がついたら年越していました。三日坊主にはかなり縁が強いようです。

 

すでにニュース等で盛んに報道されていますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言が令和2年4月7日、埼玉を含む首都圏、大阪、兵庫、福岡の7都県に発令されました。

これに遡り、令和2年3月10日、埼玉県聴覚障害者協会は要望書を提出しています。

内容は「手話言語通訳者を配置してください」という通り、記者会見における手話言語通訳者の配置を要望しています。

この問題は、令和2年4月30日以降、埼玉県臨時議会にて予算提出され、可決された後速やかに手話言語通訳者を配置する旨を、令和2年4月22日に埼玉県知事が明らかにしています。

 

では、ここで埼玉県手話言語条例(平成28年3月29日条例第17号)を見てみましょう。一部抜粋です。

 (県の責務)

第3条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ろう者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるようなものの除去について必要かつ合理的な配慮を行い、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備を推進するものとする。

第2項(略)

 第3条の中で、日常生活や社会生活を営む際、障壁になりうるものについて合理的配慮などを行うことが明記されています。

 (情報へのアクセス)

第9条 県は、ろう者が県政に関する情報を円滑に取得することができるよう、情報通信技術の活用に配慮しつつ、手話を用いた情報発信の推進に努めるものとする。

第2項 県は、災害その他非常の事態の場合に、ろう者が手話等により必要な情報を速やかに取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、必要な施策を講ずるものとする。

 第9条では、県政に関する情報を取得することについて述べられており、さらに第2項では災害その他緊急事態には必要な施策を講ずるものとする、と明記されています。

この点に立てば、埼玉県は令和2年4月7日に緊急事態宣言が発令されたにもかかわらず、3週間あまり、必要な施策を講じてこなかったことになります。この点は埼玉県が改めて再認識すべきポイントだと思います。

 

それでは次に、地方自治法*1の一部分を抜粋します。

 地方自治法第179条 普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第130条ただし書きの場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第162条の規定による副知事又は副市町村町の選任の同意及び第252条の20の2第4項の規定による第252条の19第1項に規定す指定都市の総合区長の選任の同意については、この限りではない。

第2項 議会の決定すべき事件に関しては、前項の例による。

第3項 前2項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。

第4項 前項の場合において、条例の制定若しくは改廃又は予算に関する処置について承認を求める議案が否決されたときは、普通地方公共団体の長は、速やかに、当該処置に関して必要と認められる措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない。

第179条では、緊急時において議会招集の時間的余裕がないとき、議決すべき事件を処分できると明記されています。

続いて第180条です。

第180条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる

第2項 前項の規定により専決処分にしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。 

 「軽易な事項」というのがミソですが、知事は専決処分できる旨が明記されています。

専決処分という行政用語が難しいと思いますので、複数の辞典から意義を引用します。

イメージとしては、議会での議決を省略して処理を行い、その後知事が議会に報告する、これが専決事項です。

 

では、専決処分について、どのような例があったのか列挙しておきます。

  • 2000年三宅山噴火による東京都三宅村全島避難により、議会招集が困難。補正予算20件程度を専決処分。
  • 2009年愛知県半田市新型インフルエンザワクチン接種助成拡大のための費用を専決処分(議会開催まで15日あり時間的余裕がない)
  • 2013年大阪府東大阪市議会による新年度予算等の議決せず閉会したため知事専決処分
  • 2019年台風第19号による浸水被害により多くの自治体(長野県や福島県を中心)で知事及び市町村長が専決処分。福島県では439億円の専決処分。

このように、緊急事態で議会まで時間を要する場合においては、専決処分が活用されています。

 

まとめますが、今回の議会待ちの姿勢は、到底手話言語条例を促進させる側である県の責務が問われると思います。特に、緊急事態宣言が発令されて10日後に動いたことを評価するかしないか、またこの1ヶ月前に要望が提出されていたのにも関わらずその後1ヶ月あまり後に動き出した点をどう評価するか。この点につきると思います。

知事が発するメッセージを、県民は聞いてほしいのか、障害の有無によって聞かなくてもいいととれるような今回の事態を、きちんと考えるべきだと思いますし、知事が仮に手話通訳がいらないとしたら、今回の事態を埼玉県福祉部はどう考えているのでしょうか。

改めて、障害の有無によって情報の取得に時間を要すことで、情報の取得に差異が生じるということがあってはならないと思います。すべての県民に寄り添い、緊急事態であるこの状況を乗り越える先陣に立つべき地方公共団体が、このような形であっては社会は変わりません。埼玉県は真剣にこの問題に向き合っていただきたいと感じます。

 

Twitterでもつぶやいていた方がいらっしゃったので、引用しておきます。

 

 

*1:日本国憲法第92条地方自治に関する法律。地方公共団体の組織及び運営に関する事項。